大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(ツ)111号 判決

所論は、被上告人より上告人に対する賃料の催告は、原判決の認定した適正賃料の約二倍の多額の賃料の支払を請求した過大な催告で無効であると主張する。なるほど、原審の認定した適正賃料は月額千五百九十五円であるのに対し、被上告人の上告人に対する催告は一ケ月三千円の割合で五ケ月分の賃料一万五千円の支払を請求したものであるから、右催告は約二倍にあたる過大な催告ということができるが、かかる過大な催告であつても、上告人において適正な賃料を提供したのでは被上告人が受領を拒絶するであろうことが明白な事情が存しない限りにおいては、適正賃料の範囲において有効な催告であると解することができ、記録を調査しても何ら右の如き事情が存することを認める資料はないから、右催告が無効であるとの所論は採用できない。また所論は本件賃貸借の適正賃料の算出は極めて困難であつて、現に第一審と原審とでも認定の額が異つているのであり、まして上告人のような法律に無智な者にとつて適正賃料を算定することは殆んど不可能であるから、かかる場合に前記のような過大な催告は無効であると主張するが、なるほど本件建物の上告人の賃借部分の適正賃料は、原判決の認める如くその一部については賃料の統制があり他の一部については統制がなく、その算出方法は複雑であつて、その計算が第一審と原審とで異ることも所論のとおりである(但しその相違は約定賃料を第一審は月額三千円とし原審は月額二千五百円としたことによるものである)けれども、もしも上告人において法規に従つて適正な賃料を計算しこれを提供したとすれば、その計算に多少の誤りがあろうとも、真に適正な額に著しい不足がなければ、契約解除の効力は生じないものと解するのが信義則に合致すると考えることができるから、前記のような催告が適正賃料の範囲において有効であると解しても上告人にとつて酷な結果とはならないのであつて、所論の如き見解は採ることができない。

同第六点について。

所論は、建物の増築部分は附合により従前の建物と合して一個の建物となるのであるから、たといその増築が昭和三十四年以降になされたものであつても、増築部分について地代家賃統制令の適用が排除されることはないものと解すべきであつて、この点において原判決は法令の解釈適用を誤つたものであると主張する。しかし建物の増築部分が附合によつて従前の建物の所有者の所有に帰することはあつても、地代家賃統制令の適用の有無は別個の観点から決せらるべきであつて、昭和二十五年七月十一日以降に増築された本件増築部分について地代家賃統制令第二十三条の規定の準用によつて同令の適用がないとした原判決は相当であつて、所論は採用できない。

(牛山 武藤 今村)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!